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New Technology , New Value

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新たな価値の共創新たな価値の共創

多くのスタッフを抱える外食サービスや流通小売業界にとって、スタッフの勤務シフトの作成は大きな負担となっている。その問題を解決するために開発されたのが、国内初のAIと社会心理学を活用した勤務シフト自動作成サービス「セコムかんたんシフトスケジュール」だ。この画期的なクラウドサービスを共同開発した、株式会社吉野家ホールディングスの河村社長、セコムトラストシステムズ株式会社の鈴木専務、株式会社エクサウィザーズの石山社長に、シフト作成の自動化がもたらす働き方の新しいかたちについて語ってもらった。

シフト制を導入している
企業共通の悩みを解決したい

河村:
このサービスを作るきっかけは鈴木さんからのお声がけでしたね。
鈴木:
はい、2016年12月25日の日本経済新聞の特集記事で、河村社長がシフト作成に困っているとおっしゃっているのを見て、翌日にお電話をしたんです。そうしたら、すぐに折り返しのご連絡をいただき、会う日にちが即決するという、凄いスピードで始まりました。
河村:
飲食業界ではシフトの調整は大きな問題です。現に今も、シフト調整のために店長たちが集まって、何時間も会議をすることがあります。挙げ句の果てに、埋まらない時間帯は店長が残業をしなければならない。これは当社だけでなく、スタッフがシフト制で働いている会社の共通の悩みだと思います。

凄いスピードをもって
共同開発がスタートした

吉野家_イメージ画像
石山:
私は前職のリクルートのAI研究所で、いろいろなマッチングのアルゴリズム自体はたくさん作っていました。その頃から、シフト管理は非常に難しく、奥が深い領域だと感じていたので、その分野に対して吉野家さんが挑戦していると聞いて、凄いなと思いましたし、合併前のエクサインテリジェンスでも様々なマッチングアルゴリズムを開発していましたので、私どもの技術が活かせるのではないかと考えました。しかも、勤務スケジュール作成ノウハウを持つセコムさんが加わってくれた。このプロジェクトに参加できるのは光栄でもあり、同時にプレッシャーでもありましたが、3社の強みを生かすことで、飛躍的なスピードで開発を進めることができました。
河村:
私も10年はかかるだろうと思っていたので、このスピード感には驚いています。

凄腕店長のノウハウをAIに導入する

河村:
あるとき、万年人不足で悩んでいたお店が、店長が変わった途端、他店に応援スタッフを出せるほど、充足率を高めることができたんです。それなら、その店長のノウハウを生かして、全店のシフト作成を任せたら、全社のシフトが埋まるんじゃないか?と。でも、そんな、シフト作成だけの仕事なんて、楽しくないですよね。だったら、その優秀な店長のノウハウをAIに覚えてもらえばいいのではと考えたんです。今や自動車の自動運転も実用化目前という時代ですから、シフト作りもできるはずと思ったんですね。
鈴木:
セコムでは1999年に、すでに看護師さんのシフト管理の仕組みを作っていました。それを2004年に自社の警備員の勤務シフトにも応用していたんです。ただ、セコムの場合はスタッフが正社員ですから、予め社員の労働時間が決まっています。ところが、吉野家さんのようにスタッフがアルバイトやパートの場合、労働時間が確定していない。一人ひとり働きたい時間や曜日も違えば、希望の収入や労働に対する意識も違う、そこが大変なわけです。逆に言えば、吉野家さんはシフト管理のデータをたくさん持っているということですから、それをAIに学習させればいいわけです。

このシフトツールを導入すれば
店長は本来の業務に集中できる

吉野家_イメージ画像
石山:
AIのスタートアップにとって、データをたくさん持っている、その領域のリーディングカンパニーと組むというのは非常に重要なことです。データが多ければ多いほど、AIはさまざまな例を学習できるわけですから。先ほど出た自動車自動運転もそうですが、自動走行を開発するAIの会社がデータの蓄積がある自動車業界のリーディングカンパニーと組みたいと思うのと同じく、我々が、吉野家さんと一緒に仕事ができることは、大変有意義なことでした。
河村:
車を運転するとき、人は瞬時にいくつもの情報を同時に処理していますよね。シフトを作る場合も同じです。誰かに入って欲しいときに、相手の表情や口調、態度等を瞬時に読み取り、アルバイトさんの性格や好みにあわせて、口調を変えたり、頼み方を変えたり、シフト作りが上手な店長は、それらを無意識に考えて実行しています。
鈴木:
あの人には先月2回も頼んだけど、今月も頼めるのか?とか。そういった個々のさまざまなケースも考慮しないといけませんからね。
河村:
ええ、今回そういった店長のノウハウをAIに勉強してもらうことによって、無理強いするのではなく、人が不足している時間に入ってくれそうな候補者が、引き受けてくれる確率の高い順に表示されるようになりました。さらに、Aさんにはこういう風に頼んだほうがいいといった頼み方の例まで提案してくれます。このサポートがあれば、シフト作成が楽になって、店長はお客様への対応など、本来あるべき業務に集中することができるわけです。

シフト作成の自動化を可能にした2つのAI

鈴木:
それを可能にしたのが、2つのAIですね。1つは、スタッフ全員の希望勤務時間を集計してスケジュールを組むAI。これは、セコムが2004年から全国の事業所で活用してきた実績があります。ところが、これだけでは足りないわけです。会社が働いて欲しい時間が「需要」だとすると、スタッフの労働時間は「供給」です。アルバイトやパートが多い会社では、需要と供給が完全に一致することは難しいですよね。そこで活躍してくれたのがエクサウィザーズさんの作っているレコメンド機能でした。
石山:
はい、そうです。AIの用語では「多目的最適化」と言いますが、これは難しい技術です。たとえば、Aさんはどんなお酒が好きか?という問いに、「Aさんはいつもハイボールを5杯くらい飲んでいる」という情報があれば、ハイボールという答えを出すのは簡単です。でも、シフト作成では、自分が希望していない日に出勤して欲しいと頼まれるスタッフの気持ち、頼む店長の気持ち、さらに経営的な観点といった、さまざまな視点を考える必要があるわけです。そうしたひとつひとつの思いを丁寧にくみ取っていくことで、皆さんにとって最適のレコメンドができるようになったんです。

スタッフの気持ちをくみ取ることで、
最適なレコメンドが可能に

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河村:
サービス産業が、産業の中心を担っていかなくてはいけないということは、何年も前から言われ続けています。一方でサービス産業の生産性は、ずっと低いままです。それには複合的な要因がありますが、そのひとつが人材の問題。飲食業はシフトがきつく、残業が多いというイメージがあり、学生にも不人気なのが現状です。今も半月に一度、店長が集まってシフトが埋まらない、どうしよう、と悩んでいるわけです。
石山:
「セコムかんたんシフトスケジュール」ならば、そういった時間を減らして、お店がお客様によりよいサービスを提供できるように、サポートしていけるわけですね。
河村:
そうなんです。シフトで悩む時間をアルバイトのトレーニングにあてたほうが、よっぽどいいです。アルバイトさんだって、自分に新しいことを教えてくれる人の頼みなら聞こうという気になります。さらにサービス産業の使命は、お客様に喜んでもらえることですから、そこに時間をかけられるようになれば、働く側だって楽しいじゃないですか。そうやっていい循環ができれば、自然とサービス産業が魅力的になっていくはずです。

シフトの自動化で企業の生産性を上げる

鈴木:
これからの時代、今まで以上に働き方にも多様性が求められますから、それが可能になる環境を提供できるような、お手伝いをしたいですね。
河村:
ええ。極端な話をすれば「セコムかんたんシフトスケジュール」を使ってもシフトが埋まらないならば、無理に埋めなくていい。その時間は、残業累積時間の少ない社員が残業すればいい。それでも埋まらないならば、店を閉めてしまえばいいと思うんです。それくらい、店の生産性にも繋がるシフトの問題は重要なんですよ。
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吉野家の24時間年中無休のシフトを作成してきたノウハウ、セコムトラストシステムズのAIを活用したアルゴリズム、エクサウィザーズの行動心理学に基づくAIレコメンド機能、という各社が持つノウハウが合わさることで今回のシフトスケジュールが成立した。

石山:
おっしゃる通りです。AIの会社がデータを持っている会社と一緒に働くこと以上に大切なのが、ビジョンを持っている方々と働くことです。AIは短期的な利益のために、自己都合でアルゴリズムを作ることだって可能です。だからこそ、先ほどの河村社長がおっしゃったように、AIを活用してもシフトが埋まらないなら、店を閉めてもいいとうところまで考えられる長期的なビジョンが実は大切なんですね。エクサウィザーズにはAIで社会課題を解決するという考え方がありますが、「セコムかんたんシフトスケジュール」は、単にシフト作成をするのではなく、それによって社会課題を解決していける可能性があるんだと改めて感じました。今後も、AIを活用しながら吉野家さんとセコムさんのビジョンをしっかりと具現化できる支援ができたらいいなと思います。
河村:
吉野家ホールディングスは長期ビジョン「NEW BEGINNINGS 2025」をかかげ、「ひと」「健康」「テクノロジー」の3つのキーワードをもとに、さまざまな業種の企業と情報交換をし、協力しながら新たな挑戦をしています。今回のサービスも、自社だけではこんなに早く実現できませんでした。3社で「共創」したからこそ、これだけのスピードで、これだけのサービスを作り上げることができたんです。今後は業種の異なる企業同士が「共創」することこそが、より良い未来を創造する鍵になると思います。
  • 石山洸

    株式会社エクサウィザーズ
    代表取締役社長

    石山洸

    2006年に株式会社リクルートホールディングス入社。2014年メディアテクノロジーラボ所長に就任。2015年リクルートにAI研究所を設立、初代所長に就任。2017年3月デジタルセンセーション株式会社取締役COOに就任。同年10月の合併を機に、現職就任。

  • 鈴木徹也

    セコムトラストシステムズ株式会社
    専務執行役員

    鈴木徹也

    1985年にセコム株式会社入社後、セコム北陸株式会社常務取締役、同社代表取締役社長を歴任。セコム株式会社兵庫本部本部長、セコム株式会社本社社長補佐を経て、2009年より現職就任。

  • 河村泰貴

    株式会社吉野家ホールディングス
    代表取締役社長

    河村泰貴

    吉野家で4年間のアルバイトを経て、1993年吉野家ディー・アンド・シーに入社。はなまる取締役、同社代表取締役社長を歴任後、2010年吉野家ホールディングス取締役に就任。2012年より現職就任。